うちの家族の話 父編

2021年11月08日 09:07

父を一言で言うならばズバリ

「天真爛漫な人」
である。

ネガティブな話や、暗い話題、現実を突きつけられるのが苦手で
そう言う時そ〜〜っといなくなろうとするので
母に「逃げるな!」とよく怒られていた。

父は山口県の祝島で生まれ育った。
叔母の話によると父は大層な悪ガキで、それはもうのびのびと生きていたようである。
イタズラ好きで、何にでも興味を示す、それは80歳になろうとする今でも全く変わっていない。

父は鐵工所を長く営んでいた。
一回倒産させて、懲りずにまた始めて、また倒産させた強者である。
今だから笑い話だが、当時は夜逃げ同然で引っ越しを続けた私たちは父の愚かさを心底憎んでいたものである。

しかしながら私たち家族がいまだにバラバラにならず(住む場所は違えど)済んでいるのは、ひとえに父の天真爛漫さのおかげでもある。

とにかく明るい
アホかな?と疑うほどに明るい
そしてどんなことでも「なんとかなる」と本気で思っている
お金なんて一円もなくったってそこらの草食ってでも生きていける
どこの国へ行っても、言葉が通じなくても、なぜかコミュニケーションが取れる
誰とでも一瞬で友達になる
そして人がいいので騙される
でも騙されてもダラダラ文句を言わない
「ぶち殺してくる!」と一回大騒ぎして家族に止められたら気が済むらしい。
手先が鬼のように器用
なんでも作る
グアテマラでは温泉まで掘り起こして風呂を作った
無い材料を駆使して、グアテマラでおはぎや梅干しや豆腐まで作る
絵がめっちゃ上手い
小学生の頃、私の国語のノートにこっそり女性のヌードを描いていた(しかもM字開脚)
それに気づかずノートを提出して先生に見つかった黒歴史は今でも夢に見る

父と一緒の時間はとにかくずっと笑っている
一緒に料理をしていても、ボケ担当父でツッコミ番長が私で、ずっと笑っている

父は学歴もないし、これといって名を残してきたわけではないが
人間力というか、とにかく人に好かれる力が半端ない。
グアテマラでも毎日メインストリートをうろついて、カフェでコーヒーを飲み
現地の人たちと交流している。

父たちが暮らしているパナハッチェルでは東洋人が歩いていたらこう声をかけられる確率が高い

「ヘイ!タカシ!!ゲンキデスカ!!」

タカシとは父の名前である。
東洋人は誰もがタカシを知っていると思っているのか
はたまたタカシを挨拶の言葉だと思っているのか知らんけど
とにかく「ヘイ!タカシ!」と言われる
しかしそれに続く「ゲンキデスカ!」はなんだ
聞けば父が現地の人たちに吹き込んだそうだ。
日本人には「ゲンキデスカ!!」と元気よく言っておけば大丈夫、と。

コロナで兄のホテルは閑古鳥
そんな時でも明るい父は、毎日デリバリー日本食弁当を作り町中をカブで走り回って配達している。

父には日本は合わないだろうなとずっと思っていたが、本当にそうだった。
日本ではこれほど楽しそうではなかったし、うまくいかないことばかりだった。
人に騙されてばかりの人生だった。
生きていくためだけに休みなく働くだけの日々だった。
そんな父を見るのが本当に辛かった。

なので、グアテマラに行ってくれて心から良かったと思っている。
年老いても枯れることのない好奇心、想像力、製作意欲
体が元気なうちに好きなだけ好きなことをやって欲しい。

父はある意味とても不器用で、日本という国で暮らすための生活力は今一歩だ
父は最低限生きていけるだけの食事と、家と衣服さえあれば
あとはその日その日をただ明るく、笑っていられればいい人で
地位にも名声にも全く興味のない人だ。

しかし日本にいた頃、私たちがまだ学生の頃は、どんなことがあっても仕事は休まず
何があっても私たちを路頭に迷わすことはなかった。
決して裕福ではなかったが、心が豊かだったからか
私はなぜか「いいところのお嬢さん」だと周りからはずっと思われてきた。
高校生の頃なんて「あいつんち超大金持ちらしい」と根も葉もない噂が立っていたほどだ。
それはなんと今でも変わらない。
貧乏ですよ、言っとくけど。

その「なんとなくいいところの人」オーラって、お金がある無しだけじゃなく
心がどれだけ豊かにできる環境だったか、お金がなくても想像力や発想力でなんだってできるってことを
子供の頃から親にどれだけ教わってきたか、というのは大きいのかも知れない、などと思う今日この頃であります。

父は今日も町中を徘徊して、現地の人と大笑いして、観光客をナンパしてはホテルに宿泊させて
日本食をご馳走して、ゲンキデスカ! を教え込んで、母と充実した老後を楽しんでいることでしょう。

私は父が大好きです。
日本一の父だと思っています。

EARSY




グアテマラ チチカステナンゴ 少女たち photo by EARSY

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